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「ねえ、小沼くん」  夕暮れの教室。  市川天音(いちかわあまね)が目の前に立っていた。  サラリとした黒髪、くりっとした瞳、小さな唇。  清純派美少女とはこういうやつのことを言うんだろうな、とつい考えてしまう。  高校から同級生になったこの女子に、おれは中学二年生の頃からずっと憧れている。  そんな彼女が目の前、こんなに近くで、おれに言うのだ。 「小沼くんの曲、私に一つだけくれないかな?」  このたった一つの言葉が、おれの高校生活を、大きく変えることになるのだと、おれはその時にはもうわかっていたんだと思う。  だって、彼女の言葉におれは何度も人生を変えられてきたんだから。
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