第1曲目 第1小節目:出会い

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第1曲目 第1小節目:出会い

 時は流れて、高校2年生の6月下旬。 「あっ」  階段を降りながらおれは、Bluetoothのヘッドフォンを机の引き出しに入れっぱなしだったことを思い出す。  帰り道には音楽が必要だ。  高校から歩いて最寄駅の新小金井駅まで15分、そこから電車を4本乗り継いで家まで1時間半。  そんなに長い時間を無音で過ごせるはずがない。アルバムが二枚聞ける。  階段をたったっと駆け上がり、教室のドアを開ける。  夕暮れ色の空気で満たされた教室。  窓際の自分の机の上に座ってアコースティックギターを構えてぼーっとしている後ろ姿がそこにあった。  市川天音(いちかわあまね)だ。  容姿端麗(ようしたんれい)、成績優秀。  人当たりは良いが、人に媚びるような態度を見せることは無く、凛としたその姿に、男子のみならず女子にまで好かれている。  おまけに歌が上手く、ギターが弾ける。 黒髪セミロングのストレートヘアーが似合う完璧超人だ。  おれがドアを開けた音に気付いたのか、市川がこちらを振り返る。 「おー、小沼(おぬま)くん」 「お、おう......」  何、この人おれなんかの名前覚えてんの? 完璧すぎない? 「忘れ物?」 「うん」  会話は最低限に。  でないと、余計なことを言ってしまいそうだ。 「スタジオが、空いてなくてさあ」  市川が照れ臭そうに状況を説明してくれる。 「そうなんだ」  おれは引き出しからBluetoothのヘッドフォンを出して、耳にかける。 「それじゃ」  そう言って、なぜか震える指でiPhoneの再生ボタンを押して、颯爽(さっそう)と立ち去ろうとした。  その時。  おれのiPhoneの”スピーカー”からそこそこの音量で音楽が流れ始めた。
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