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俺は父が勤めている大学に通っている。といっても学部は違うし、授業も取ってないし、ほとんど会うことはない。西村は俺の中学からの友達で、この間父の授業にこっそり潜り込んで「女子が渋カッコいいって騒いでた」と知りたくもなかった情報を仕入れてきた。
それから、直接聞いたわけじゃないけど、母も同じ大学を卒業している。父はずっと同じ大学に勤めているというから、母が俺を生んだ時、両親は「先生と学生」の関係だった、はずだ。
父は平然と(・・・)、同じ職場で働き続けている。
「さて、お風呂、彰人で最後だから消しといてね」
「わかった」
食卓が片付くと、明日朝から打ち合わせだという母はさっさと寝る支度を始めた。風呂から出ると、父もすでに自室に引き上げていて、リビングは暗くなっていた。父のスケジュールは知らないが、大体夜遅くまで――時には朝早くまで――部屋にこもって論文を書いたり本を読んだりしている。俺は言われた通りお湯のスイッチを切ると、二階の自分の部屋に向かった。
明日の授業は午後からだ。まだ寝るには早いし、今日の授業で出た課題に早めに手を付けておこう。週末は一人暮らしをしているやつの所に泊まりに行くから、多分課題は出来ないし――
と、ドアがノックされた。
「彰人、少しいいかな」
父だ。そりゃそうだ、母はノックなどしない。
俺は心臓が跳ねるのを感じた。
「いいよ、どうぞ」
明かされるなら、きっと今夜だと思っていた。
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