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「いや、違うな。聞いてほしいことが一つ、許してほしいことが一つ、聞きたいことが一つだ」
聞きたいこと? なんだろう。それはまあ後でいい。
いつになく緊張し、言いにくそうにしている父を見ていると、こっちまで吐きそうに緊張してくる。心臓がバクバクいっているのは、慣れないアルコールのせいだけではないはずだ。
「今日教えてくれるんじゃないかと思ってたよ。俺は――父さんは、俺の本当の父さんじゃないってこと」
父が少し驚いたように顔を上げた。
「知ってたのか」
「何となくね。別に調べたわけじゃないよ。母さんからも何も聞いてない」
「だろうなぁ、香織は……母さんは、言わなくても大丈夫よって言ってたからな」
それは想像がつく。母は多分黙っているつもりだったと思う。
父はまた小さく息を吐いた。
「彰人の本当の父親のことは、俺もよく知らない。香織と初めて会った時、もう妊娠してたからな。道でたまたま、陣痛で動けなくなってる所に行き会ったのが最初だ」
「え、道で? 大学じゃなくて? だって母さんは…」
「ああ、うちの大学の学生で、俺はその時もう講師をしてた。でも授業は担当してなかったからな、うちの学生だと知ったのはかなり後だったよ」
「そうだったんだ……じゃ、赤の他人、っていうか」
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