ヘタレ義父と俺

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ヘタレ義父と俺

ずっと前から気が付いていたけれど、黙っていたことがある。  誕生日を迎えた日の夜、ガキじゃないんだからと散々言っておいたにも関わらず、両親は揃って俺の帰りを待っていた。彩よく盛られたちらし寿司、揚げたての天ぷら、とろとろ半熟の味付け卵、好物だなんて一度も言ったことがない俺の好物が、テーブルにぎっしりと並べられているのを見た時は、ガキでもないのに少しだけ泣きそうになった。 「成人おめでとう、彰人」  外で泊ってこようかとも考えたけど、二人とも浮かれているのが先月くらいからわかったので、黙って祝われることにした。最後にホールのケーキが出てきたのはさすがに笑ってしまったけど。  俺、佐藤彰人。大学二年生。今日で二十歳。 父は大学教授、母は学術書を主とする出版社の編集者。息子は俺一人だけ。母はまだ大学生だった二十歳の時に俺を産んだ。その時父は三十歳で、すでに大学の教壇に立っていたという。 「しかし時が過ぎるのって本当に早いわぁ。私が二十歳になった時は、もうお腹にあんたがいたのよね」  とは、去年の誕生日を過ぎてからもう何度聞かされたかしれない。     
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