チョコレートメモリーズ

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◇ 「パパ、おかえり~」 仕事で疲れきった俺を癒やしてくれるのは、娘の笑顔だ。 毎日、俺が帰ってくると真っ先に出迎えてくれる。 その後ろから、妻の歩美(あゆみ)が顔をのぞかせる。 「おかえりなさい、あなた。悪いんだけどこれから夜勤だから、美咲のことよろしく」 「わかった」 妻は看護師だ。 週に何度か夜勤の日がある。 妻は笑った顔が美咲によく似てる。 美咲は母親似と言われることが多い。 正直、ブサイクな俺に似なくてよかったと思っている。 もしそうだったら、娘が不憫(ふびん)でならないから。 「パパ、聞いて聞いて!」 娘は喜々とした表情で話す。 「何だ」 「みさきね、チョコ作ったの!」 「チョコ?あぁ……バレンタインチョコか。でもバレンタインはまだだぞ」 バレンタインデーまで、あと一週間以上ある。 「え?そうなの?」 娘は眉をハの字にした。 「そうだよ。バレンタインは2月14日」 「じゃあ、今日渡したら、もらってくれないの?」 娘は今にも泣き出しそうだ。 俺は慌てて言い直す。 「そんなことない!パパは美咲のくれるものなら、何でも嬉しいよ」 「本当っ!?」 「うん」 「じゃあ、今から持ってくるね!」 娘は、子供部屋へ駆けていく。 バレンタインデーの日にちを、先に言っておくべきだった。 娘の悲しむ顔を一瞬でも見たくないからな。
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