ネットストーカーの夜

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ネットストーカーの夜

 眠れない夜はネットストーカーするに限る。  わたしをふった元カレの元カノは、とても美しい見た目をしている。タイムラインには流れない、Instagramでいいねがたくさんつくような写真を、わたしは人差し指で探す。まだ、深夜の1時。  裏垢女子と呼ぶにはネットリテラシーに弱すぎるわたしは、ただばれないようできるだけの注意を払うのみだ。名前を変えてフォローはしないで、ありきたりなことしか呟かない。  未知が多すぎるインターネットの海の中、しかし今夜も手垢のついた検索履歴をタップしている。何度調べたかわからない名前は、何度調べてもわたしの心を満たさない。深海に潜れば潜るほど息苦しくなる。  探せば出てくる華やかな写真は、元カレを仕留めて元カレを捨てた女にふさわしい、歯軋りするほど綺麗な顔立ちをしている。今日の一言は「ビールのみたい。笑」。  前回以降の呟きをぱらぱらと見て、元カレのリプライがないことに安心して、ようやく眼球が落ち着いてくれる。  ブルーライトに侵食された脳を暗闇におとしこんで、死んでしまいたいと思いながら眠りにつくのだ。このまま死んでしまいたい、と。  今日、鍵がかかった。  もう覗くことはできない。除け者は弾き出されるのみだ。元カレと同じように。  ネットリテラシーがなくても知っていた、元カレが元カレの元カノにブロックされていること。だって元カレは今も隣に寝ていて、さっきも酔っぱらって元カノの愚痴を話していたのだから。  この男をふった元カノと、この男にふられたわたしは、近いようであまりにも離れている。あの端正なかんばせ以外に、わたしは、何を手に入れればいいのだろう。  だめな男に愛想をつかして別れた彼女と、だめな男にふられてなお所有されているわたしは、わたしは、わたしは……どうしたら彼女みたいに美しくなれるのだろう?  寝息がうるさくて眠れない夜は、ネットストーカーをするに限る。鍵のかかったプロフィール画面を見つめながら、わたしは思うのだ。  このまま死んでしまいたい、と。
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