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序章 アルバン・バダンテール氏、黒衣の男の訪問を受ける
床板の軋みに、微睡んでいた男は目を覚ました。
すぐに自分が今、自宅にいないことを思い出す。
ボロボロの天井に、白い壁紙が所々剥げた粗末な部屋の粗末なベッド。
部屋というより、小屋だ。
さっと半身を起すと隅を睨む。
そこには真っ黒な巨大な塊があった。
「ははあ、流石は元軍人。今の物音で目を覚ますとはねぇ」
ガラガラと水を含んだような声がすると、真っ黒な塊はずいと前に進み出た。
二メートルはあろうかという巨漢の男。でっぷりと太ってはいるが腕や足は細い。
巨漢は胸元から覗くシャツ以外は上から下まで、黒を身にまとっていた。貧弱な明かりの下では、また闇に溶けていってしまいそうだった。
「アルバン・バダンテール氏……でよろしいですかな?」
巨漢は足を組むと、何もない空間に椅子があるかのように座った。
アルバンは口を拭うと、溜息をつく。
「死神か? 随分と遅いじゃないか」
巨漢は、くくっと低く笑った。
「残念ながら、あなたと生死について問答をしている暇は無いのです。私は、『あの村で何があったか』聞きに来たのですよ」
「それなら、警察やら軍部のお偉いさんに話した。もう話すことは無い」
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