はじまりの朝

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   そんな中たった一人、アリシアを助ける者が現れた。 「アリシア!!!!」  幼馴染みのマルスだ。左手に訓練用の剣を握り、アリシアへ向かって一直線に駆けて来る。黒い渦の中の目が視線をマルスへと移した。そこで意外そうに瞬きを繰り返す巨大な目。動きが止まらないマルスに、動揺しているようだ。  間合いを詰めたマルスは、剣を抜いて鞘を投げ捨てた。だが訓練用の剣であるから切れはしない。マルスは咄嗟に覚えたての雷撃魔法の呪文を唱え、右手の指先に稲妻の塊を発生させて、左手に握る剣の刃にその指を滑らせた。 「たあああああ!!」  裂帛の気合と共に、マルスは無我夢中で雷撃魔法を帯びた剣を巨大な目に突き刺す。しかしその一撃は、眼球の表面に傷を付けただけでへし折れてしまった。反動で地面に転がるマルス。ただ雷撃魔法の稲妻が纏わり付いたのは効果があったのか、巨大な目はゴロゴロゴロ…と雷鳴のような唸り声を残して、黒い渦と一緒に消え去って行った。  それを茫然と見送ったマルスは我に返り、膝をついたままアリシアに近寄る。 「大丈夫かい? アリシア」と声を掛けるマルス。  その声にアリシアも我に返り、マルスに抱き着いた。 「マルス!…マルスぅ!!!!」  すると魔法陣の放つ光は白色に戻り、中から金色の光の粒子を舞い上がらせ始める。それは糸を紡ぐように絡み合うと、やがて鎖のついた金の鍵となって宙を漂い、アリシアの首へと掛けられた。魔法陣は消滅し、金の鍵を手にしたアリシアは、不思議そうな顔で鍵をマルスと見詰めた……… 「また一つ、暗黒竜の封印が解かれてしもうたか…」  マルスとアリシアの通うプレシティン魔法学校の校長室では、水晶球を眺める老校長が唸るように言った。向かい合うロギンスが苦々しく応じる。 「迂闊でした。何年も前からやっているホットドッグ屋でしたので…帝国銃士隊が向かいましたが、すでにもぬけの殻だったようです」 「やはり、オーランドの古い血を狙っておったのか。それで?…暗黒竜の結界に動きを封じられず、アリシアを助けた者とは?」 「魔法銃士科のマルス=パレッタ…アリシアの幼馴染みとか」  その名を聞いて校長は「パレッタ…ああ、なるほど」と大きく頷く。そしてロギンスを見据えて静かに告げた。 「ともかく鍵に選ばれたのだ。酷ではあるが二人には旅に出てもらわねばなるまい…この世界のために」 おわり  
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