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それでも僕は諦めたくなかった。 「君は俺の為に戻ってきた。だからもう要らなかった。要らなかったんだ。そう。要らなかった。要らなかった。」 彼は繰り返し呟く。 僕は涙の滲む目で、必死に彼を見た。部屋の灯りが眩しく目に刺さるようだ。 「お願いだ、聞いてくれ、目を、覚まして」 失いたくない。親友を。彼は。 「ちが、うよ。僕は君のことを」 「………黙れ」 冷たい声だった。僕から指を引き抜くと、一旦視界から消えた。 「お、おい!今ならまだ間に合う!まず頼むからこれを解いてくれ!一緒に警察にっ」 カチャカチャと音がする。衣擦れの音、ばさりと言う音。 「………黙って」 「お、おい!なぁ!」 聞いたことのない声色だった。確かに親友の声のはずなのに。まるで知らない男の声だ。先程と比べ物にならない恐怖が足元から這ってくるような気分だ。 「………もう、いいよね?」 明るい声とともに、ギシリと一際大きくベッドが軋んだ。 僕の上に影が落ちた。まさか。 「優しく、するから」 このまま首にでも手を掛けてくれと祈った。せめてここで殺してくれ、と。 でも彼の両手は僕の首に掛かることはなかった。 先程まで弄られていた箇所に、ひたりと当たる感覚に震えた。 「だ、だめだだめだだめ………!」 「大丈夫大丈夫」 「たすけてっ、いやだ、やめろ、まって………」 指三本なんて比較にならない程の重量が侵入してくる。圧迫感。内蔵がせり上がってくるような。 「い、いいい、たあああ、むりぃ!ひいいい!!」 激痛は焼ききれるような熱さに錯覚した。吐き気と侵食され犯される恐怖。 泣きたくないのに涙が溢れて噛み締めたいのに口からは泣き声と情けない悲鳴が止まらない。 「よしよし、痛くない痛くない」 怪我の治療を拒む子供にするように、彼は優しく頭を撫でる。それがこの蛮行とちぐはぐで僕をパニックに陥らせる。 どうして。 どうしてこうなったのだろう。どこで間違えたのだろう。 きっと僕が悪かったんだ。 でも。 ただ僕は、君と親友でいたかった。 君はこんな僕にできた唯一の親友だったのに。 「………君との友情なんて、最初から存在しなかったんだよ」 彼は、僕に囁いた。
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