ケーキ屋

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翌年、また同じようなことがあり、店長は綱島さんの奥さんに相談したそうです。 すると、綱島さんの奥さんは何度も謝罪しながら、店にやって来てチョコレートケーキを買って行きました。 「あの人が、私のために予約してくれたケーキ。来年ももしあの人から予約の電話が来ましたら、お知らせください。私が買いに参りますので」 奥さんはそう言ったそうです。 それからも毎年、12月半ばになると綱島さんから予約の電話があり、奥さんが取りに来るのだと、カンナは私に教えてくれました。 私はレジの横を確認すると、血のついた紙幣はなくなっていました。 カンナは綱島さんの奥さんに電話をかけると、三十分ほどして穏やかそうな奥さんがやってきました。 「毎年、ご迷惑かけてごめんなさいね」 そう言って、チョコレートケーキを買って行きました。 クリスマスケーキは大きくて、一人で食べきれるのだろうか、と余計な心配をしていると、カンナは「心配いらない」と言いました。 クリスマスイブには息子夫婦と孫が家に遊びに来て、孫も大好きなチョコレートケーキを囲んで楽しく過ごし、その一番いい席には綱島さんの写真がいつも飾られるそうです。
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