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「ご予約のチョコレートケーキでお間違えありませんか?」
男性は頷き、ポケットから出したものをショーケースの上に置かれたキャッシュトレイの上に置きました。
それは、二つ折りになった千円札が三枚でした。
「お会計失礼します」
そう言って、その二つ折りになった紙幣を手に取って広げると、その紙幣にはべっとりと血と泥がついていました。
私は思わず、その紙幣を床に落としてしまいました。
「し、失礼しました」
私は床に落ちた血の付いた紙幣を拾い上げて、レジには入れずにカウンターの横に置きました。
そして、箱をショーケースの上に置き、確認のためにチョコレートケーキを男性にお見せしました。
すると、さっきまで無表情だった男性の口元が、一瞬だけ綻びました。
「こちらでよろしいですか?」
私の問いに、男性は小さく頷きました。
「袋にお入れしますので、少々お待ちください」
私はチョコレートケーキの箱を作業台に移し、箱の開閉口にシールを貼ったり、袋に入れたりしていました。
「お待たせしました」
そう言いながら、チョコレートケーキを入れた手提げ袋を持って振り向いた時、男性の姿が消えていました。
自動ドアが開いた音も、気配すらもなかったというのに。
私は手提げ袋を持ったまま、店の外に出ました。
自動ドアが開いた時、やはりドアの動作音とチャイムが鳴りました。
そして、店の外を見回しても、〇島さんの姿はありませんでした。
私は戸惑いなら、店の中に戻りました。
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