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「颯太!バレンタインデー、どうだった?」
もうすぐ家、というところで肩を掴んできたのは和泉だ。
「どうって!和泉さんがくれないからゼロですよ。」
悲しい、という顔をして見せる。
「あららあ。ごめんね?」
申し訳なさなんて微塵も感じてなさそうな声で謝罪の言葉を述べる和泉。
「いいです~。」
「いいです~って。いじけてんの?」
「いじけてません!」
そう言うと、ほんとに颯太は馬鹿だなあ、と笑ってくる。
「…もう~。じゃあ、これ、あげるよ!」
余り物だからね、という補足と共に、
握らされたのは可愛くラッピングされたチョコレート。
「え」
「毎年お母さんと作ってて…初めて自分一人で作ったから、美味しいかわかんないけど…
って、すごい嬉しそうじゃん!」
思わず頬が緩んでしまっていたみたいだ。
和泉が僕の顔をみてけらけらと笑う。
「…いや、まじで嬉しい!!和泉ほんとありがとう!」
和泉からのチョコが、こんなに嬉しいと思う日が来るなんて。
毎年当たり前のようにもらえていたことが幸せなことだったと痛感してしまう。
「あ~、いいよ別に!
…その代わり、私のチョコにも、ちゃんとありがたみ感じてよ。」
「もう、すっごい感じる!和泉大好き。どうしよう、嬉しすぎて食べられない!」
「本当に感じてるのかなあ・・・。」
和泉のチョコは
当たり前だと思ったら、そうではなかった。
毎年、彼女がただの幼馴染の僕にくれるチョコは
優しさと思いやりに溢れていた。
2019年2月14日。高校一年生の冬。
和泉のチョコが、実は僕にとって大切なものだったと気づいてしまった。
このチョコがたとえ、「チョコの数」としてはノーカウントだとしても
彼女にとってそのチョコに、何の意味がなかったとしても。
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