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「うん……御免……」
晴臣の何時もと変わらぬ声に、多少安心出来たのか一琉は襖を少しずつ閉じる。が、まだ何となく晴臣の肩へ行く一琉の視線。
「お戻りを」
「うん……」
促され、漸くぴったり閉じた襖。向こう側の気配も無くなると、晴臣は溜め息を吐いた。
「此の程度であんなに落ち込む精神だ……気も使うさ」
千里は腕組みしつつ、空を眺めた。
「ふぅん、俺なら思い切り痛がってみるけどね」
「根性無しか」
呆れた様な晴臣の声に、顔を向けた千里は得意気に笑う。
「だって、そうすれば若が膝枕でもしてくれたりして」
目を丸くする晴臣。
「何だと?」
千里は部屋の襖を親指で指しつつ、笑っている。
「あんなに気に病んでおられるなら、頼めばしてくれそうでしょう?」
晴臣は此の他愛ない戯言に不快感を覚えた。先程、一琉がやたら、他の目から見た己の容姿を気にしだした様に。
「お前、若の膝枕で休めるのか」
其れでも取り敢えず、軽く溜め息混じりに千里に呆れる晴臣。しかし、そんな晴臣の言葉にも千里は堪えていない様子。
「ええ。若は其の辺の娘よりお美しいですしね……主で無ければ、と余計な事を考える事も……何ですか、顔怖い」
本音、なのだろうか。表情から笑みを消してそう語った千里へ、晴臣も表情を失っていた様で。ふと晴臣へ視線を向けた千里が身を引くように離れたのだ。
「失礼な奴だ。元々こういう顔だ」
己がどんな顔をしていたのか気にはなるが、聞くわけにもいかず、静かに物申した晴臣。
「其れもそうか」
返ってきた言葉に、今度は素直に不快感を表情に出した晴臣。
「重ね重ね失礼な奴だ」
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