本分とは。

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 一方の一琉は夕暮れに染まる部屋の奥で、膝に転がる猫の体を優しく撫でてやっていた。膝にいる相棒の名は福(フク)。在る日に、一琉が城へ迷いこんだ小さな福を部屋へ連れ込んでからの長い付き合いだ。なので福も、そこそこなお年かもしれない。最近は、こうして一琉の膝にいるのが一番落ち着く様だった。静かな空間に、一人と一匹。 「福、今日はね……嬉しい事と悲しい事があったよ」  一琉は微笑み、膝の上でごろごろと喉を鳴らす福の体を優しく撫でてやった。福は一琉の言葉が分かる様な、そんな仕草を見せてくれる。膝より、一琉を見上げる様に首を向け、一度鳴いた。其れが、まるで話を促すように聞こえて。 「晴臣がね、私を助けてくれたんだ……己の身を省みず……」  頬を染め、囁く様な小さな声で打ち明ける一琉。其の後で、出たのは憂える溜め息。福を撫でる掌も、動きが止まった。 「でも……晴臣が私を守ってくれるのは嬉しいけど、其れは晴臣が傷付くんだ……」  沈んだ声に、福は又顔を上げて鳴く。一琉は苦笑いを浮かべた。掌の要求だろうか、と。再び優しく福の体を撫でる、白く美しい手。 「後ね、こないだ宣言したばかりだけど……私、日焼けするのは止めるよ」  又囁かれた言葉に、福は一声上げて答えたのだった。
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