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「――はい。終わりました……抜糸迄無理はお止め下さいね」
言いながら、片肌脱ぎであった晴臣の着物を整えていく彩。晴臣も、腕を通しながら己で襟を正す。
「分かっている」
「もう少し、御自身の事も労って下さい……一琉様も、大切ですけど」
彩は、丁寧に晴臣の着物を整えつつ沈んだ声で物申してみるが。
「昨日も話したろ。俺達はそんな事に疑問は無い」
晴臣には、何も伝わらない様だ。少々煩わしげに答えた其の声に、苛立ちに似た感情も込み上げる彩。
「でも……私は、晴臣様にはもっと御自身を一番に思って頂きたいです」
強い声であった。直ぐ後ろにいる彩を振り返った晴臣。
「気持ちは有り難いが……其れでは、此処に居る意味が無い」
己の身を案じてくれる者の言葉は有り難いが、此れは己の義務であり、存在する意味なのだと。まだ納得しないのだろうか、彩は俯いてしまった。しかし、突然何やら意を決した様に見据られ、たじろぐ晴臣。
「あの、晴臣様――」
「晴臣殿」
と、彩の声を遮るが如く襖の向こうより聞こえたのは千里の声。晴臣の意識は其方へ向いてしまった。
「千里?おい、若はどうした?」
そうだ、こんな処で千里の声がすると言うことは持ち場を離れていると言う事。晴臣の眉間へ皺が寄った処で、襖が静かに開けられる。
「少々宜しいですか?……おや?先客ですが、どう致します?若」
襖の隙間より、中を伺った千里の言葉に首を傾げた晴臣。
「若……?」
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