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襖の隙間より、もうひとつ、遠慮がちに覗く顔は一琉であった。晴臣は驚く。
「あ、彩殿?……ご、御免なさい。あの、えっと、出直す、よ……」
一琉は部屋の中を覗き、其の先客に傷付いていた。嫌に早い鼓動が苦しい。千里が、そんな一琉の肩へ優しく手を置く。
「其れが宜しいでしょう。野暮でしたな、晴臣殿……?」
そう言った千里へ、晴臣が少々睨みながら口を開いた。
「宗吉殿に代わり、昨日の傷を見に来てくれただけだ。そう言う言い方は誤解を招くだろう。彩へ無礼だぞ」
「そう言いますか……」
千里は呟き、去り掛けた体を一琉と共に戻しながら襖の間から彩の複雑そうな表情を見た。案の定、膝へ置いた手は何かに耐えるように握られている。そして、静かに其の手を付き頭を下げた彩。
「晒も替えましたし、私は此れで失礼致します」
「ああ。御苦労だった」
晴臣は勿論、そんな彩の心情にも表情にも気付くでもない。去って行く彩の背中を見送る千里。
「誰が一番無礼だか……」
再び千里から小さく出た呟きは、呆れた様な一言であった。
「若、何か御用に御座いますか」
晴臣には千里の声等届かなかったのだろう、側へ腰を下ろした一琉へ要件を訊ねる。一琉は頬を染めながら、俯くと。
「あの……有り難う」
消え入りそうな、小さな声。けれど、晴臣の耳には届いた。しかし其の真意は見えない。
「若、其れは何を……?」
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