止まっていた刻。

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 一方の晴臣。静かな部屋に一人、特に何をするでもなく煙管を片手に煙をふかしていた。ぼんやりと、宙を舞う煙を眺める晴臣。煙の中に浮かんだのは、先程見たおはぎを嬉しそうに頬張る一琉の笑顔。ふと、和らぐ晴臣の表情だが、続き浮かんだ千里と一琉の妙な空気も思い浮かんだのだ。和らいだ表情が一変、不快感しか見えぬものへ。思えば、一琉の己への態度はよそよそしく他人行儀に近いが、千里へは違う。千里が持つ雰囲気もあるのだろうが、己より千里と居る時の方が一琉の表情が明るく見えるのだ。そう考え出すと、又腹から沸く不快感、苛立ちが。晴臣は、少々荒く煙管を鳴らした。  此の思いが何であるか気が付いたのはいつだっただろうか、忘れてしまった程に時が経っていた。そもそも一琉は『主』、己がどうこう出来る存在ではない。青い時期は葛藤もあった。しかし、一琉を連れ出して逃げる等も非現実的。何より、一琉が己とそんな事を望む訳もないのだから。他へ目を向けようと抗ったが、どれも旨くいかず、最早其れをするのも面倒になり、今此処だ。幼い頃から、只側に控えているだけ、変わらない日々。ならば、いっそ何も変わってくれるなと願う晴臣。己のものに出来ぬなら、せめて誰のものにもならないで欲しい。何時しか、そんな身勝手な独占欲が晴臣の中で渦巻いていたのだった。
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