止まっていた刻。

7/14

62人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ
 次の日。晴臣は、何時も通りの退屈な持ち場へ佇んでいた。隣には勿論千里が。朝から何時も以上に口数の少ない晴臣。機嫌も悪そうだ。 「肩は?」  しかし、気にしない千里。取り敢えず、御愛想に怪我の具合を訊ねてみる。 「痛い」  顔すら向けない晴臣の返答。千里の顔も、晴臣の方へは向いていない。 「では、次何かあれば私が若に触れましょう」  此の言葉に、漸く顔を向けた晴臣。 「妙な言い回しをするな」  苛立った声、表情。今の晴臣は、明らかに怒の感情を示している。 「妙ですか?」  しれっと答える千里へ、晴臣はもう声を出すなと言わんばかりに顔を戻した。暫く、黙ってくれた千里ではあったが。 「晴臣殿」  又も声が。溜め息を一つ吐く晴臣。 「何だ」  顔は向けないが、続く言葉を促した。 「彩とは、何処迄の仲ですか」 「は……?」  意外過ぎた言葉に、思わず晴臣は千里へと顔を向けた。言葉を続ける千里。 「非番に手土産付きで見舞い等……宗吉殿の姿も無く、少々気になりました」  勘繰られていたのかと、晴臣は溜め息を吐く。 「本当に傷の消毒に来ただけだ。何の関係も無い……何だ、彩に惚れているのか?ならば、此れからは気を使おう」   晴臣の表情を一瞥し、千里は笑う。 「いえ。可愛いとは思いますが、其処迄の感情は彼女にありませんね……只、晴臣殿とそうなるのなら、此方も構えが必要でしょう?祝いとか。俺、給金消えるの早いし」 「馬鹿馬鹿しい……安心して好きに使ってろ」  呆れた晴臣の声。眉一つ動かさずに返ってきた言葉に、改めて彩を気の毒に思う千里。一琉の話題を耳にする時の晴臣とは全く違うのだから。気付けぬのは当人同士のみかと呆れる。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加