62人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ
次の日。晴臣は、何時も通りの退屈な持ち場へ佇んでいた。隣には勿論千里が。朝から何時も以上に口数の少ない晴臣。機嫌も悪そうだ。
「肩は?」
しかし、気にしない千里。取り敢えず、御愛想に怪我の具合を訊ねてみる。
「痛い」
顔すら向けない晴臣の返答。千里の顔も、晴臣の方へは向いていない。
「では、次何かあれば私が若に触れましょう」
此の言葉に、漸く顔を向けた晴臣。
「妙な言い回しをするな」
苛立った声、表情。今の晴臣は、明らかに怒の感情を示している。
「妙ですか?」
しれっと答える千里へ、晴臣はもう声を出すなと言わんばかりに顔を戻した。暫く、黙ってくれた千里ではあったが。
「晴臣殿」
又も声が。溜め息を一つ吐く晴臣。
「何だ」
顔は向けないが、続く言葉を促した。
「彩とは、何処迄の仲ですか」
「は……?」
意外過ぎた言葉に、思わず晴臣は千里へと顔を向けた。言葉を続ける千里。
「非番に手土産付きで見舞い等……宗吉殿の姿も無く、少々気になりました」
勘繰られていたのかと、晴臣は溜め息を吐く。
「本当に傷の消毒に来ただけだ。何の関係も無い……何だ、彩に惚れているのか?ならば、此れからは気を使おう」
晴臣の表情を一瞥し、千里は笑う。
「いえ。可愛いとは思いますが、其処迄の感情は彼女にありませんね……只、晴臣殿とそうなるのなら、此方も構えが必要でしょう?祝いとか。俺、給金消えるの早いし」
「馬鹿馬鹿しい……安心して好きに使ってろ」
呆れた晴臣の声。眉一つ動かさずに返ってきた言葉に、改めて彩を気の毒に思う千里。一琉の話題を耳にする時の晴臣とは全く違うのだから。気付けぬのは当人同士のみかと呆れる。
最初のコメントを投稿しよう!