止まっていた刻。

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「えっと、じゃあ……福、暫く座布団に居てくれるかな」  一琉が膝の福へ、申し訳無さそうに隣に置いていた福専用の座布団へおろした。福は、少々不服そうに鳴き声を上げて伸びをする仕草。此の状況に目を見張る晴臣。 「ちょっと福の毛が付いてるけど……はい、晴臣」  無邪気な笑顔で、空いた膝を小気味良く叩く一琉。 「えっ、いや、若っ……!」  流石に頬を染め、戸惑う晴臣。晴臣にとっては、幼馴染みとの戯れともならないのだから。しかし、一琉は何か役に立てるならと、己を守ってくれた晴臣へ純粋な謝意が込められていた。其れに、役に立てたなら晴臣の己への印象を変えられるかもしれないとも。 「私の為に怪我をさせたんだ。本当は今日も休まないと……もし蒼士殿が来たら、私が巧く説明するよ」 「そ、そういう問題では……」  まだ尻込みする晴臣。端で見ている千里は苛立ちに近い感情となっていた。座する身から、片足を前へ一琉へ歩み寄ろうとする。 「ならば、私が……」 「お前は健康無傷だろうが」  静かだが強い声と共に、背の着物を強く捕まれてしまった千里。振り返ると晴臣が鋭く睨んでいた。 「むっつり……では、私は表で待機しております。若、晴臣殿が不届きな真似をしたらば直ぐに叫んで下さい」 「俺を何だと思っとるんだ」  最初の声が一番気になった晴臣。千里はすれ違い様に晴臣の耳元へ口を寄せる。聞こえた言葉は。 「酒、奢って下さいよ」
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