止まっていた刻。

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 少し不機嫌ながら、そんな言葉を告げ表へと戻って言った千里。取り残された晴臣が、一琉を見ると。 「はい、どうぞ」  やはり無邪気に笑顔で膝を叩く仕草。観念した晴臣は、心を無にする。 「は……では、少し横に……」  晴臣は静かに一琉の膝に頭を乗せ、傷のある肩を上に向けた。一琉は了承した事ながら、あまりに近い晴臣の顔に少々緊張を覚えた。 「晴臣、痛いよね?」  取り敢えず、問うてみる一琉。 「いえ、もう然程」  其れへ晴臣は顔を横へ向けたまま、視線もやらずに静かに答えた。一琉は寂しげに頬笑む。 「強いな、晴臣は……」 「若もお強いでしょう」 「泣き虫だって、言ってた癖に」  少し拗ねた様に返ってきた声に、晴臣は記憶を辿る。確かに、初見の印象はそんなものであった。口にしたのかも知れないと。 「幼い頃の話です。今は其の様に思うておりませぬ」  一琉はそんな晴臣の言葉に笑う。そして。 「あの……本当はね、私、晴臣と一緒に遊びたかったんだ……」 「は……?」  晴臣が少し一琉の方へと顔を向けた。一琉は突然晴臣と目が合い、顔が熱くなるのを感じ反らしてしまった。少し震える一琉の体に気が付き、晴臣は顔を戻す。 「でも、何時も声を掛けられなかった……断られるのが、怖くて」  続き聞こえた言葉に、晴臣の表情には一瞬憂いが浮かんだ。 「断ったり等致しません」  静かに否定する。
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