星と命と限りあるもの

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星と命と限りあるもの

 それは余りにもまばゆい光であった。  局所的にしか観測されることのなかったそれの正体を、正しく知る人間なんていないのだろうと、私は確信している。  その夜は満月であった。  手を伸ばせば届きそうなほどの満月であった。  特別空に興味のない私ですら、窓を開け放ってぼうっと眺めてしまうほどの満月であった。  世間的な記録と、私の記憶とが一致しているのは、このくらいのこと。その日は晴れていて、満月であった。ただそれだけのことであった。  でもそれだけでないことは私自身が体験したし、他にも同じように記憶している人は確かにいた。  それはそれは、何が起こったのか理解が追い付かないほどの光景であった。  一瞬ににして真昼の時間かと錯覚するほどの光が空から降ってきたのだ。わかりやすく言えば大量の流れ星で、突如として現れた流星群であった。  しかし一般的に流れ星や流星群を見たからといって、実際に星の欠片を手にするわけでもなく、その正体というのはその大きさ1mmから数cm程度、重さ0.1gから大きくとも1g以内の「塵粒(ダスト)」なのだ。それが地球の大気とぶつかりその摩擦から塵の成分が光を放つこと、端的に言えば、ごみが燃えているだけなのだ。  だから、手元に星の欠片を手にするなんてことはないのだ。  私は星にも月にも空にだって興味はなかったが、ロマンチックなことやファンタジーなことにはもっと興味はなかったしどちらかといえば否定的な人間であった。  そんなことはあるわけがないと言うため、そんなことを否定するために一応の知識をさらりと頭に詰め込んでは、ああそうだろ、そんなことだろうと思ったって自分の中で勝手に納得していた。  夢とか希望とか、そんなことを話す同い年の子どもとは、全然話は合わなかったし、合わせる気もなかった。  所謂私は、可愛くない子で、子どもらしさに欠けている、冷めた子どもであった。  同い年の子どもたちが、やれお花屋さんになりたいだとか、野球選手になりたいだとか、お姫様になりたいだとか、テレビに出てくるようなヒーローになりたいだとか、言っている間に、私は自分の残された時間の中で何ができるのかを考えなければならなかった。  夢を見る余裕なんてなかった。  私には、ただ現実に差し迫った限られた時間しかなったのだ。
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