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鬼嫁には逆らえない。
俺は時間をかけて豆を食べきった。
その夜のことだ。
猛烈な腹痛に襲われた俺は、義父が運転する車で救急病院に駆け込んだ。
豆を80個食べたと言うと、当直の医師は「豆はガスが溜まりやすいんですよ。ほどほどにね」と苦笑した。
もちろん、検査結果は異常なし。
診察室から出ると、妻と義母が待っていた。驚いたことに心配のあまり、二人とも涙を浮かべている。
鬼の目にも涙、と言おうとして自制した。
俺が大丈夫と知るや、二人は口々に言う。
「来年は合同でしましょう。そうすれば、食べるのも一回で済むし。豆まきはうちですればいいわ」
「ちょっと! 子供がいる、うちの方がいいじゃない。お母さんは太巻きを担当してよ」
「年寄りに面倒を押し付けないでほしいわ」
「豆まきのあとのお掃除だって大変なのよ!」
「ああ、もう、うるさい! 来年のことを言うと、鬼が笑うぞ! 来年のことより、明日の会社だ。俺は帰って寝るぞ!」
心を鬼にしてそう言いたかったが、『マスオさん』に言えるわけもなく――まだ揉めている二人を置いて、俺は会計に向かった。(終)
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