第一話

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黄昏時のゆったりとした時間が好きで、俺はいつもこの時間を楽しみに待ち侘びている。帰宅途中の、セダンの車の黒色のハンドルが交差点に差し掛かるたびに、右へ回転する。仕事場は自宅から南西方向にある。建築関係の現場に二十歳の頃から、携わっていてこの仕事はもう五年目になる。いまやもう仕事に慣れ後輩の指導にあたる立場になっている。仕事場は三十名もの同僚がいて、いつも活気に溢れている。飛び交う大声は信頼関係がよいという証だ。帰宅後のビールの一杯が一日を締めくくる自分へのご褒美だ。嬉しい日も悲しい日も風呂あがりのビールが癒してくれる。 『もう一本ビールないのかな?』 『お父さんが全部飲んじゃった。』 『えー』 俺と父と母で住むこの家は、壁の汚れが、建てて二十年経つ家を物語っている、柱にある小さい頃の身長を測った傷がなんだか懐かしくて、俺もこんな小さな時があったもんなーとしみじみ思う。かきのたねを咀嚼していると、眠気が一気に増していき、五感で感じる速度が遅くなるような気がしながら夢への扉を開けていった。
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