第一話

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柔和な60代位のおばちゃんの店員がお冷やを持ってきて注文を聞いたら、さっと立ち去り手際よく隣のテーブルを拭いている。注文したオムライスは昔ながらの厚みの薄い卵に包まれていてライスは、チキンライスで熱いデミグラスソースがかかっている。 これが何とも言えぬ絶品なんだ。香りだけでも幸せになっちゃうと言えど語れど味での有頂天は慎ましやかに居なくてはならない。  『有り難うございました。またお越しくださいませ。』 暖かい部屋からそとへ行くときのこの寒暖差なんとかしてくれー。心の中でそう呟き、白くなった息を吐きながら俺はすたすたと去っていった。昼下がりの休日は、気のせいかいつもよりゆっくりと流れているように感じる。京急本線の赤色の車体は見慣れた景色を今日もゆっくりと走っている。  帰宅したら、母親が帰っていた。 『あら、早いお帰りね。』 『お母さんこそ』 『あ、もうすぐ牛乳なくなるよ、お母さん。』 『なくなるの早いわねー』 そんなに話すことはあまりないけれど、こんな軽い会話はよくする。 何年も使っている、陶磁器のコップをぼーっと眺めながら、椅子に座った。     
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