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ここはかつての僕達の故郷。
1年前に地震があり、多くの人が亡くなった。
その後この辺りは地盤が緩んでいるとかで
居住禁止区域に指定され、
今ではすっかり廃れた街になってしまった。
B「…どこまで行くんだよ?」
A「もうちょっと。もうすぐ着くよ、ハル。」
もうこの言葉を何度聞いただろう。
ちなみにハルとは、僕の名前だ。
B「…なぁ、もう帰ろう?
見ての通り、ここにはもう誰もいないし、何もないんだよ。」
A「昔はここも賑わってた。学校の帰り道はよくこうして買い食いしながら、くだらない話をしたよね。懐かしいなぁ。」
リンはさっきから僕の話には聞く耳も持たず、懐かしい昔話をしてばかりだ。
説得を諦めた僕は、終わらない昔話に相槌を打ちながら、リンの後をついて行った。
A「着いた!」
しばらく歩いた後、リンはそう言った。
どうやら目的地は墓地だったようだ。
そして、リンがしゃがむ前には僕のお墓があった。
B「リンがここに来た理由ってもしかして…」
A「ハル、久しぶり。来るのが遅くなっちゃってごめんね。」
リンは、僕の声を遮ってお墓に向かって話し出した。
当然だ。リンに僕の声が聞こえている筈がないのだから。
A「そうだ!アンナおばさんにウィンナーパン作ってもらったんだよ。
ハル、アンナおばさんのウィンナーパン好きだったよね。いつもみたいに半分ずつね。」
そう言ってリンはウィンナーパンを半分に割り、片方をお墓に供えた。
A「すっかり冷めちゃってるけど、美味しいね。」
リンは、もう片方のパンを口にしながらそう言った。
しばらくお墓に向かって話した後、リンは立ち上がって言った。
A「バイバイ、ハル。また雪の季節になったら来るからね。」
B「ありがとな、リン。」
僕は届く筈のないお礼を述べ、帰って行くリンを見送った。
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