夕暮れバレンタイン

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夕暮れバレンタイン

 夕暮れ時の商店街は、大勢の買い物客で賑わっていた。  学校からの帰り道。茂木翼(もてぎつばさ)は同じバスケ部の佐野吾郎(さのごろう)と共に、人混みの間を縫うように歩きながら我が家へと向かう道を辿っていた。 「腹へったー」 「言うな、余計減る」 「しゃーねーだろ、育ち盛りなんだから」  翼と吾郎は只今中学2年の14歳、紛うことなき育ち盛りだ。  肉屋や総菜屋の店先から、揚げ物やら焼き鳥やらの匂いが、二人の鼻を(くすぐ)るように漂ってくる。その甘い誘惑につい足を止めそうになりながらも、財布の中身を思い浮かべては涙を呑んで素通りするのが、毎日の日課になっていた。 「んなことより。翼よ、あれを見ろ」 「どうした、パリの灯か?」 「その持ちネタは飽きたわ」 「さーせん」 「いいから、あれだよ」  吾郎が指差す先に目をやる。  そこにあるのは一軒の洋菓子店。その店先には大勢の女子学生達が集まっていた。 「うん、お尻がいっぱいだな」 「そう、群れなすお尻。じゃなくて分かってんだろ、バレンタインだよ」 「別にかんけーねーし」     
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