【プロローグ】

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 片思いであるのならば、それ相応の努力をしろ、と。  暇な時間など無いだろうが、このカス野郎が――等々。  ありとあらゆる罵倒が聞こえて来そうな光景ではあるが――いやいや、ちょっと待ってくだせぇ。  ただの暇つぶしでさえ、娯楽を求めることさえ、世間というのは許してくれないのか?  確かに“自分磨き”は決して怠るものではない――だが。  自分の趣味、娯楽、暇つぶしと言った楽しみの時間を一切捨てろと申すのか?  そんな人生――一体何が楽しいのだ?  恋を実らせる――彼女ができれば、それはそれは楽しい日々を送ることができるだろう。  しかしその前に、自分の自由な時間を全て捨てろと。  有名な漫画家になる為に、一日十時間以上も絵を描き続ける新人漫画家ではあるまいし。  有名な大学に進学する為に、一日十五時間以上勉強するがり勉君でもあるまいし。  たまには、このような落ち着ける時間があっても構わないだろう?  そもそもそのようなルールを一体誰が決めたのかと。  誰も答えられないそのルール、存在自体が曖昧なそのルールに従う必要などどこにもない。  ならこの至福の時、優雅な一時だけは誰にも邪魔をされたくない――その空間に。 「ねえ、聞こえているかしら?」
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