家族

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「ミラ、ティストさんがあなたに会いたいんだって」  孤児院の職員にそう言われた時の喜びを覚えている。  いつもいつも家族に憧れていた。  夕暮れの中を親と手を繋いで歩く子供。  一時帰宅で嬉々として準備する友人。  私は父と母の顔を知らないばかりか名前すら知らないのだ。  そんな私に家族ができるかもしれない。期待を胸に眠れない日々が続いた。  ティストさんは初老の男性だった。紳士的な姿に少しだけ緊張した。 「ねぇ、ティストさん、どうして私を選んでくれたんですか?」  それでも勇気を振り絞って聞いた。  好意的な答えが返ってくるだろうと思っていたし仲良くなりたいと思っていたからだ。 「答える必要はない」  車を運転している彼がそう言った。 「ミラ、お前が今後私に何か尋ねることは許可しない。今からお前に金と家と召使いをやる。私のことは忘れろ。二度と会うこともないだろう」  私をちらりとも見ずに彼はそう言った。  彼とは言葉通り、その日以外に会ったことはない。  金と家と召使いを私に与えてそれきりだった。  ますます家族というものに憧れが強くなった。  私の父さんと母さんはどんな人だったんだろう。目の色は?髪の色は?能力はあった?愛し合ってたのかな?  色んな疑問の最後にぽつんと。  どうして私を捨てたの?  孤児院での寂しい生活や仲良さげな家族を妬む気持ちが私の内側を凍らせていくようだった。  どうしようもない事情があったの?仕方なかった?私のことは愛してた?  心臓が冷え切って今にも止まってしまうのではないかとすら思えた。  今すぐ私を抱きしめて!愛していると言って!ミラと名前を呼んで欲しいの!  たまらずに起き上がって居間へ行くと昼間とは変わらずに仮面をつけた男がいた。  酷く暴力的な気持ちになって体を凍りつかせてへし折った。  私は私を咎め、叱る人さえいないのだ。
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