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すごい人混み。
きゃあきゃあと騒がしいその中心に有名人がいるのだろう。
友人に誘われて見に来たはいいものの誰だかいまいちわからない。
素晴らしい人だ。尊敬はしている。
でもここまでして見たいというわけでもない。珍獣じゃないんだから。人気のアイドルや俳優のような感覚なんだろう。
隣にいた友人が黄色い悲鳴をあげる。彼女はミーハーだ。
「ミラ、ミラ、ミラ! ねぇってば!」
友人が興奮した様子で私の腕を引っ張る。
きっと見えたんだろう。良かったね。
そう思っていると不意に声をかけられた。
「あなたがミラなのね」
声の主は見たことがある。先ほどの人混みの中心から覗いてた人だ。
教科書の写真よりは少し年をとっていた。
「紅葉さん?」
心臓がどきりとした。
三十代半ばくらいだろうか。
綺麗な上品な大人の人って感じがする。長い焦げ茶色のくせっけを束ねて赤い瞳よりもっと鮮やかな口紅をつけてる。
まさか声をかけられるとは思っていなかった。声を出さないでいる私に彼女は微笑みかけた。
「静かなところでお話しできるかしら?」
私は信じられない気持ちのまま頷いた。
彼女がよく来るという喫茶店へと移動した。
落ち着いた趣のあるそこにはちらほらと人が入っている。
私とゆっくり話がしたいといった彼女は護衛の人を下がらせて一人きりになっていた。
彼女のお気に入りだという紅茶を二杯頼んでもまだ信じられない。
一体彼女がどうして私と一緒にいるんだろうか。
「あなたの能力のことを聞いたの」
不意にそう紅葉さんがいった。
紅葉さんは柔らかな声で話を続ける。
「国境を越えた自警団を作りたいの。強い能力を持った人たちに協力してもらってね。戦争の抑止力にもなると思って……」
彼女が紅茶を一口飲んだ。
私もつられるようにカップに口をつける。
「……どうして、私なんですか?」
紅葉さんの炎のような瞳が私を見つめていた。
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