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オレンジ色と赤色が混ざった美しい瞳だ。
彼女は確か火の能力の筈だ。炎を吐き出し操ることができると書いてあった気がする。
黙ったままの彼女は微笑みながら私を見つめている。
炎の色の中にぼんやりと私の白い影が写っている。
「どうして、私のカップに毒を入れたんですか?」
ぴくりと彼女の手が動いた。
そして懐から銃を取り出して私へと向ける。
それとほぼ同時に彼女の首元には刃が当たった。
「妙な動きをすれば首を跳ねる」
仮面の男だ。
仮面の男が紅葉さんに刃を向けている。
静かな店内を鑑みるにこれは前もって仕込まれていたことなのだろう。
どちらも動かないまま緊迫した空気だけが流れていた。
命が助かった。そう安堵する気にもなれない。
机からカップを落とす。がしゃりと音を立てて割れた器と凍り付いた中身。
「静かなところでお話しはできますか?」
つい先程言われた言葉を真似すると彼女は顔を歪めていた。
「あなたって外でも私を監視しているの?」
喫茶店から出てまず最初に声をかけたのは仮面の男へとだった。
相変わらず仮面の下の表情は分からない。声色に感情はない。
「時が来れば話す」
助けてくれてどうもありがとうなんてこいつらには一生言わないだろう。
「いつでも殺してやるから覚悟しときなさい。またどうせ代わりが来るんでしょうけど」
苛立ちを抑えつつ平静を装いながらそう言った。
本当に腹立たしい。淡々とした事務的な言葉も声色もその趣味の悪い仮面もだ。
男に対して帰るように促した。彼は素直にその場を離れたがどこからか見ているのかもしれない。
ふぅと一息ついてから改めて紅葉さんへと向き直る。
彼女は物騒な男が消えたからか少し安心している様子だった。
「ここなら落ち着いて話ができますか?」
そう言って彼女を連れてきたのは川辺だ。
特になんの変哲も無い人気のない小さな川辺。
人目のつかない場所で話がしたかったしいざとなれば能力的に私の方が有利だから選んだ。
「……夕暮れまでね。息子が迎えに来ることになってるから」
あなた、お母さんなのね。
そう思うと胸がちくりとした。
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