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一、初恋人魚
ひとめ見て、分かった。ああ絶対にそうだって思った。
うっすらと、ま新しい本のにおいのするその店で深く沈み込むような青の背表紙を見つけたときから、私の指先はふるえていた。
タイトルとペンネームが奇麗な銀色で印刷されているのもどこかあのひとらしいと思った。
ページをめくったその瞬間、胸の中に高波が溢れ出して止められなかった。
どこもかしこもなつかしい、あのひとの声がする。
私は涙を浮かべて微笑みながら書店で立ったままページをめくった。
あの日のあのひとと私がそこにいたから。
他の誰が間違えても、私だけは間違えるはずがなかった。
あんなにあのひとと言葉を交わした私だけは、幾万の本の中から幾億の言葉の中からあなたのことばを見つけられる。
そしてたぶんこの物語に込められた意味が本当に分かるのは、世界中でもきっと私だけなんだろうと思った。おこがましいとは思いながら、それでも、私の心が締めつけられてゆく。
私は確信する。
この物語を書いたのがあのひとだということ。
そしてこの物語には、大きな嘘があるということも。
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