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柳瀬グループのアメリカへの企業拡大も軌道に乗り、忙しかった和緋とも会う回数が増えてきたある日のことだった。
暗い顔をした和緋が早乙女のアメリカ本社へやってきた。
一目で何かがあったことくらいわかった。
そしてその内容も、なんだか予想ができてしまって。
社長室で2人きりとなった瞬間、彼は俺を後ろから抱きしめてきた。
手を腕に当てるが、固く結ばれた腕は離れることなく。
まぁ、外そうとすらしていないのだが。
「何かあった?」
そう問うても、答えはないまま時間だけが過ぎていく。
「和緋」
ゆっくりと、できるだけ優しく声をかければ、彼は腕を離し一歩だけ下がった。
俺もゆっくりと振り返り彼を見るが、その顔にいつもの色がないのは明らか。
今にも倒れそうだけど…
そして彼はポツリと呟いた。
「僕は輝雅が一番なんだ」
「うん」
思い出される数年前の記憶。
確か俺も同じだったな。
そんなことを考えながら和緋の言葉を待つ。
「僕は…」
「親父さんと何かあったのか?」
彼は日本から戻ったばかりだった。
このタイミングだ。
もはやこれしか考えられないだろう。
その顔はまるで拗ねた子供のよう。
「僕は結婚なんかしないよ」
告げられたその言葉に、なぜか俺は何も感じることはなかった。
その理由を俺はわかっていたから。
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