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「そんなわけだから、水を抜くときは念入りに確認しろよ。――人魚が死んだら、俺は殺されるからな」
最後の言葉を告げた時だけ、彼の顔つきが神妙に変わった。
人魚の話は冗談ではなかったのだろうか。
彼の真意を確かめる前に、首に回されていた腕がほどける。
「じゃ、お前は先にプール室に行ってろよ。俺は仕事の説明をする前に、お前の荷物を部屋に運んでくるから」
プールの中を確認することなく、萩原さんはプール室を出て行った。
一人残された僕は、辺りを見回す。
プールの中心には白い噴水があった。
霧状の水と噴水のせいで、ここからではプールの全貌がよく見えない。
「……なにもいないよな?」
からかわれただけだと思っていても、薄暗く底冷えする室内はどこか空気が違うように感じる。
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