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長い黒髪が水面で放射状に広がり、薄い羽衣のような赤いワンピースの裾が漂い揺れている。
裾は長く足先が少し出ているだけだ。
ワンピースから伸びる手は長く、肌はプールの色が映りこんでいるのか青白い。
彼女の姿は何かを思い出す――そうだ、子供のころ母にもらった絵本に出てきた人魚だ。
きっと彼女が人魚の正体だろう。
「すみません、聞こえますか?」
再度呼びかけるが、やはり反応は返ってこない。
もしや、死んでいるのだろうか。
古びた屋敷と女性の死体なんて、どんなB級ホラー映画だ。
いや、そんな物騒なことを考えている余裕はない。
溺れているのだろうか。
少し迷ったが、このまま見殺しにすることもできずにプールに飛び込んだ。
指先から綺麗に着水し、水中に潜っていく。
予想以上にプールは深かった。
どこまでも沈んでいく体に、僕はパニックに陥る。
慌てて手足をばたつかせ、ようやく水面から顔を出すが、水を飲み込んでしまった。
苦しい上に、服を着たまま飛び込んだせいで体が思うように動かない。
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