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僕がこの人里離れた古い屋敷へやってきたのは、兎にも角にもお金が必要だったからだった。 町からバスで三十分。 赤いバスを見送り、山道を登り出してから十五分。 スーツケースを引きずり歩いていた足を止め、一息つく。 そろそろ目的地に着くころなのだが、この道であっているのだろうか。 不安に駆られたが登ってきたのは一本道だ。 間違うはずはない。 夏だというのに空気は冷たく、パーカーのジッパーを閉めた。 道路わきの竹やぶをのぞき込むと、がけ下には最後に民家が一件見えた。 一面の緑、緑、緑。 湿った土と水路と草の匂いが体を包み込み、息をするたびに口の中が自然の味に染まっていくようだ。 しばらく休み、再び歩き出してからすぐに一本道の先に白壁が見えてきた。 その向こうには、古びた洋館が建っていた。
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