93人が本棚に入れています
本棚に追加
/286ページ
1-2
僕がこの人里離れた古い屋敷へやってきたのは、兎にも角にもお金が必要だったからだった。
町からバスで三十分。
赤いバスを見送り、山道を登り出してから十五分。
スーツケースを引きずり歩いていた足を止め、一息つく。
そろそろ目的地に着くころなのだが、この道であっているのだろうか。
不安に駆られたが登ってきたのは一本道だ。
間違うはずはない。
夏だというのに空気は冷たく、パーカーのジッパーを閉めた。
道路わきの竹やぶをのぞき込むと、がけ下には最後に民家が一件見えた。
一面の緑、緑、緑。
湿った土と水路と草の匂いが体を包み込み、息をするたびに口の中が自然の味に染まっていくようだ。
しばらく休み、再び歩き出してからすぐに一本道の先に白壁が見えてきた。
その向こうには、古びた洋館が建っていた。
最初のコメントを投稿しよう!