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あの時、萩原さんが言いよどんでいた理由がようやく分かった。
彼女は一言で説明するには難しい人だ。
萩原さんは人魚と例えたが、あれは本当に例えだったのだろうか。
マリアという女性が出て行った窓を見つめながら、僕は浮世離れした彼女のことを考える。
「……おーい、東雲クーン」
萩原さんの声が背後から聞こえた。
振り返ると、デッキブラシを片手に持った萩原さんがプール室のドアの前にいた。
「お待たせ、お待たせ。掃除用のブラシとか持ってきたから、ちょっと試しにやってみる?」
「その前に、着替えて来てもいいですか?」
「着替え? そういえば、なんでそんなところに座り込んでいるんだ?」
彼はプールサイドに近づくと、ようやくぬれねずみとなった僕の姿に気付いたようだ。
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