【怖い商店街の話】 肉屋

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【怖い商店街の話】 肉屋

その商店街には、ある噂があった。 月も星も消えた真っ暗な夜。 静まり返った商店街に、麻袋を引きずった大男が現れる。 その麻袋の中には死んだ人間が入れられていて、大男が家に持ち帰って食べているというのだ。 そして、その大男が商店街の肉屋の田辺だと。 肉屋の店長の田辺は、30代後半で背はでかくて太っている。 田辺が立っていると、肉が並ぶガラスケースとパネルの間の受け渡し口には田辺の胸の部分しか見えない。 接客する時は、いつも覗き込むように屈んで頭を出す。 そのぐらいの大男だった。 それに田辺は無口だ。 「いらっしゃい」もなければ「ありがとう」もない。 注文を受け、肉を袋に入れ、お金を受け取って袋を渡すだけ。 みんなそれに慣れている。 俺も田辺の声を聞いたことがない。 だが、しゃべれないわけではなさそうだ。 時々、店の奥で田辺が母親らしき女性と話している姿を見たことがある。 どんな声なのか。 俺たちの中では、その話題で持ちきりだった。
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