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田辺が店で働く前は、田辺の兄が働いていた。
兄は弟の田辺同様に背は高いが痩せた男だったが、口が達者な人でよく客と話し込んでいるのを見たことがあった。
俺もよく話しかけられ、好きなバスケットボール選手の話とか、ゲームの話とか、どんな話にも乗ってくれたが、その人は突然店をやめてしまった。
しばらくして現れたのが田辺で、噂が広まったのもちょうどその頃だった。
放課後にその話をしていると、不意に松岡は言った。
その噂を誰かが確かめようと。
今までも、何人もの好奇心野郎が夜中に商店街で待っていたらしいが、一人として麻袋の大男に会ったことはなかった。
「来るかどうかもわからない大男を待って、補導でもされたら最悪だぞ」
俺がそういうと、松岡は「大勢だとバレるから、一人でいいんじゃないか?」なんて言い出した。
誰が行くか。
噂を面白がっていた奴も、いざ一人で確かめに行くとなると拒んだ。
結局、じゃんけんに決まったのだが、厄を引いたのは俺だった。
俺は一人、噂を確かめに行くことになった。
握った拳を見ながら虚しく佇む俺に、野郎たちは笑って肩を叩く。
「戦況は明日教えろよ」
「忘れるなよー」
「逃げるなよー」
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