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「修司君じゃないかぁ。こんな夜更けに、こんな場所にいてはだめじゃないかぁ」
大男はニッタリと笑った。
大男が俺の名前を知っていることに驚いた。
「じ、塾の帰りで。こ、これから家に帰るところなんです」
「そうかぁ、学生さんは大変だねぇ」
驚いたことに、大男は饒舌だった。
俺の知っている田辺は、無口で不愛想だというのに。
大きな麻袋が、波を打つように動き出した。
俺も大男もそれに気づいてしまった。
「あの……」
その中身って何ですか? なんて聞こうとして思いとどまった。
大男はそれを察知したのか、俺を見ながらニッタリと笑った。
「若くていい豚が手に入ったんだよねぇ。脂肪はいまいちだけどねぇ、筋肉はよく締まっているし、内臓はきっと美味しいぞぉ。楽しみだなぁ」
そう話す大男の口元からダラダラと唾液が垂れた。
目は完全にイってしまっていた。
「どうしてもっていうならぁ、君にも食べさせてあげるよぉ?」
「い、いや、俺は結構です」
「そうかぁ。残念だねぇ。それじゃぁ~ね」
そう言って、大男はまた大きな麻袋も引きずりながら歩きだした。
俺はすぐにでも逃げ出したくて、パンクした自転車にまたがった。
「あーそうだ。このこと誰かに言ったらだめだよぉ? 約束だよぉ」
そう言いながら大男の口元はニッタリと笑っていたが、目からは殺意に似た何かを感じた。
俺は小さく頷くしかなかった。
大男は大きな麻袋を引きずりながら、商店街の路地を曲がっていった。
俺にはあの大きな麻袋の中身を確かめることは出来なかった。
あの大男の笑顔を思い出すと、俺の体は自然と震えだし涙が出て来た。
俺はパンクしたままの自転車に乗り、逃げるように家に帰ったのだった。
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