0、僕という存在

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 そんな僕の前に、ある女の子が現れた。屈託のない笑顔で、何度も僕に話しかけてきた。変な子だと思った。  女の子は僕に、人間の頭はつながってはいないことを教えてくれた。他人が何を考えているのか、どう動けば良い結果になるのか、一人ひとり考えているのだと。ダンボール箱は、今までの経験と感触と、もう一人の動きの観察を総合して考えて協力したから運べたのだと。  それでは勘違いして間違えてしまうじゃないかと、僕は言った。すると女の子は「そりゃ、そうよ」と答えた。人は幼いうちにいっぱい間違えて学習するのだと言う。大人になっても間違えることはあるけど、そのつど直せばいいのだと。君が思っているほどみんなは分かり合ってはいない、別にそれで良いのだと。  僕は衝撃をうけた。それと同時にしまったと思った。  僕はみんながやっていた「学習」をまったくしてこなかった。今から学習を始めても、もう遅いのかもしれない。僕はまた困りはててしまった。  女の子は「なら、私が教えてあげる」と言ってくれた。  それから僕は、一生懸命学習をした。当たり前のことでも僕はすぐ分からなくなるので、ノートにびっちり書き込んだ。分からないことは、すぐ女の子に聞いた。何てことないことや同じことを何度も聞いてしまったけど、女の子はいつも優しく教えてくれた。少しずつ、分かることが増えていった。  小学校最後の年には、カウンセラーのいる教室だけだったけど、学校に通えるようになった。すごく嬉しかった。
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