10、生還者の話

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 丁度外れかけのドアが、盾になってくれるかのように開いている。俺はそのドアに身を隠し可能な限りの身体強化を施した。体力は跳ね上がり、特に力を入れた防御力はミサイルを撃ち込まれても無傷でいられるほどのやつだ。長時間は持続できないが五分……いや、もう三分か、それくらいなら余裕だ。  ドアの陰から飛び出し、脇目も振らずに少年に突っ込む。少年が咄嗟にアリアからコピーした雷撃を放つが、直撃しても痛くも痒くもなかった。  なす術もなく少年は俺に取り押さえられる。コピーできるのが魔法とくくられているものだけなのか、発動させる瞬間を見ていないとコピーできないのか、どちらにせよ俺の身体強化はコピーできなかったようだ。  組み伏せられた少年が目一杯首を回し俺を睨む。  「触るな化け物!」  ようやく少年の声が聞けた。  「君だって中々化け物じみているじゃないか。ちょっと話を訊きたいだけなんだから大人しくしていてくれれば手荒なことはしな……」  唐突に少年の体の下からボコボコと何かが沸き上がった。大量の沸騰したお湯の白い泡のようなものが体積を増やしながら広がっている。その泡の一つ一つがテニスボール程の大きさになると灰色に変わりもぞもぞと独立して動き出した。それが無尽蔵に増え続けている。  あっという間に床を埋め尽くした謎生物は、土石流のような圧倒的な質量で俺を押し流す。あれよあれよと少年から引き離され、近づきたくても足がとられて進めない。チクチクすると思ったら謎生物には小さな顔があり、俺の体に噛み付いていた。怪我をするほどではないが地味に痛い。  少年がこちらをじっと見ている。俺達から離れたいらしく足を動かしているが、未だに沸き続けている謎生物が少年の足をも止めている。使いこなせていないのか、そもそもコピーしたこの能力か魔法に欠陥があったのか。  少年が足を取られて尻餅をついた。だが、それでも俺達から視線を外さない。コピーのストックがあまり残っていないようで必死らしい。お陰でこちらも迂闊に力を使えない。
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