0、僕という存在

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 ただ、学校に行けるようになったせいで、数少ない友達の一人に嫌われてしまった。手荒い彼にはよく怪我をさせられたけど、あの時聞いた「嫌い」の言葉よりも痛いものはなかった。  頭の奥がずんと重くなり、のどが裂けてしまったのかと思うほど痛くなった。呼吸ができなくなり、手が震えた。「悲しい」がこんなにも苦しいものだと思わなかった。とても怖くなって「普通」になることをやめようかとも思った。  でも、ふと気がつくと、女の子がずっと手を握ってくれていた。今まで人に触れられても何も感じなかったけど、その手は暖かくて、安心した。  もう少しがんばってみようと思った。  中学校では、普通の子と同じクラスに入ることができた。皆と同じとまではいかなかったが、「ちょっと変わった子」として受け入れてもらえた。ちゃんと会話もできるようになったし、他人を驚かせてしまうことも少なくなった。  全部、女の子のおかげだ。彼女がいなければ、僕は今頃、自力で外に出ることもできず部屋の中でうずくまっているだけだっただろう。彼女からは本当に沢山のものを貰った。なのに僕には、彼女に渡してあげられるものが無い。だから、せめてずっと彼女の味方であろうと思った。  たとえどんなことが起こっても、誰に何を言われても、彼女の幸せを最優先にしよう。きっと起こりはしないけど、世界と彼女のどちらかをとらなければいけなくなったら、僕は迷わず彼女をとると誓おう。お母さんや施設の人には申し訳ないが、彼女の為なら世界が滅んでも構わない。  でも、彼女は優しい人だから、世界が滅んだら悲しむのだろう。  「私を捨てて、世界を救いなさい」とでも言われたら……  僕は、どうするのだろうか?
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