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「顔色がわるいですけど、何かありましたか?」
いつの間にか、教室で隣の席の女子がそばに居た。平均よりも小柄な人間だ。所々カールした髪は、寝ぐせなのかヘアアイロンという名の毛髪拷問器具で整えたものなのか俺には分からない。
この人間、なぜかよく話しかけてくるのだが、さて名前は何だったろうか?
「また名前忘れましたね。夢子ですよ。一か月も経つんですから、クラスメイトの名前ぐらい覚えてくださいよ」
夢子が少し怒ったような口調で言った。このセリフ、昨日も聞いたような気がする。
高校に入学してから一か月、俺はクラスメイトの名前を誰一人覚えられていなかった。元々人の名前や顔を覚えるのが苦手だったが、最近は特に酷い。
しかしこの……夢子の外見はよく覚えている。若干知能が低そうに見えることは置いておいて、高校一年生のはずなのに妹よりも幼く見える。今でもこの……彼女は飛び級してきた幼女なのではないかと疑っている。他にも不審に思うことはある。
「何で俺に話しかける」
彼女はきょとんとした顔で俺を見た。記憶が正しければ、俺から話しかけたのはこれが初めてだ。
「友達が欲しいのなら普通、同性に話しかけるべきではないか? いくら席が近いからと言っても、こんなにも協調性の無い人間に話を振っても何の発展も無いと思うが?」
俺にはしつこいぐらいに話しかけてくる彼女は、他の人間には人見知りして自分から話題を振るようなことをしていなかった。それどころか、他人に何かを言われるたびにもじもじとして、短い返事ですら見事に噛んでしまう。この学校に同郷の仲間は居ないらしく、いつも端っこで縮こまっていた。
「あの……私、人とお話するのが苦手で……」
彼女には俺が何に見えているのだろう。数日前まで複合型商店で飾られていた五月人形にでも見えていたのだろうか?
「ち、違うんです。私は同種族の人とはお話できるんです」
?
「別に珍しい種類でもないだろ。俺以外にいくらでも……」
「居ないんですよ!!」
声を荒げた彼女は、普段ののろまな口調からは想像出来ない気迫だった。
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