0、僕という存在

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0、僕という存在

 僕は人とは違う、変わった人間だった。  一人ひとり趣味も考え方も違う中で、何をもって「普通」なのか分からないけど、会う人がみんな顔をしかめるのだから、彼らの許容する範囲を超えているのは間違いないのだと思う。  僕は何のトラブルもなく生まれ、どこにでもあるような住宅街で育った。父親は僕が生まれてすぐに亡くなってしまったが、今時、片親の家など珍しくもない。家のしつけやルールだって、他の子たちの家とかけ離れているようには思えない。なのに僕は「普通」になれなかった。理不尽だと怒ってみたかったが、怒り方が分からなかった。  僕は何とか「普通」になれるよう、自分なりにがんばってみた。でもダメだった。同じぐらいの年の子たちは怯えて泣き出したり、怒ってきたない言葉を僕にぶつけたりした。そして、大人たちは、とても困ったような顔をしていた。  僕は、みんなを不快にさせてしまって、もうしわけないと思った。でも、それじゃダメだったんだ。「普通」の子なら、拒絶されたことに傷つかなければいけなかったんだ。  僕が一番分からなかったことは、「空気を読む」ということだ。  たとえば、ここにダンボール箱がある。中身は空っぽだけど、一人で運ぶには大きすぎる箱だ。そして、子供が二人いるとする。  この子供たちだけで大きなダンボール箱を運ばなくてはならないとき、二人は大した打ち合わせをしなくても左右に分かれ、底を持ってバランスを保ちながら持ち上げられるのだ。そして、プログラムされたロボットのように、歩くスピードを合わせ、目的の場所まで運べるのだ。  僕にはみんながなぜそんなことが出来るのか分からなかった。きっと、僕以外の人間は頭の中がつながっているんだと思った。思考は統一されていて、手足を動かすように、位置や体格で動かす人間を決めているんだ。すべての人間が一つの生命体だったんだと。  そして僕だけがそのつながりからはじき出されてしまっていると、本当に思っていた。つながってないのだから、どうがんばっても「普通」にはなれなかったんだ。そう思ったとき、体中がざわざわした。これが「怖い」という感情だと知ったのは、だいぶ後のことだった。
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