4、魔女の話

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4、魔女の話

 土曜日の昼を少し過ぎた頃、病院の正門を出た所で「んー」っと背を伸ばした。 ふと聞き覚えのある声がしたので振り返ると、知った少年がニヤニヤと腹の立つ顔をして立っていた。  「久しぶり、アリア。お見舞い?」  私より一つ年上のツキだ。彼はどこにでも突撃する無鉄砲さのせいか、常に日焼けをしていた。私よりほんの少し背が高く、髪の色は肌と違って真っ白だった。日本ではただそこにいるだけで目立つ。  私は「まぁ」と短く答え、離れようとした。ツキとはあまり長話をしたくない。しかし彼は、当たり前かのようについてきた。  「つれないなぁ。数少ないキメラ同士仲良くしようよ」  少ないといっても、研究所のあるこの街には割と多く集まっているので、少ない実感はあまり無い。ツキの言葉を無視しながら、私は家路を急いだ。私は彼が好きではない。  「そんなに急ぎの用でもあるの? ……もしかして」  ツキは突然私の前に立ち塞がり、私の進行を妨げた。  「まだアレ続けてるの?」  笑いを含めたツキの声に、私はイラついた。人気(ひとけ)の無い場所だったら殴り倒してやったのに。  「だったら何? バラすつもり?」  私はツキを睨みつける。ツキは「怒らないでよ」とヘラヘラしながら言った。怒らせているのはお前だ。  「まさか、こんなにも面白そうな事バラすわけないじゃん。でも、もしバレたらすっごく怒られるんだろうなと思ったら、かわいそうだなーと思って」  私はツキのあごに掌底を食らわせた。ツキがよろめいて倒れる姿を横目に、そのまま家へ帰る。はるか後方から「暴力はよくないよー」とうなるような声がしたが、私の知ったことではない。
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