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偽りの仮面を、私はいつまでも被り続ける。
結局のところ、私は妻に聞き出すことが出来なかった。私は、不安を抱えて、家を空けるしかない。娘と共に玄関まで行くと、妻が出迎えてくれた。
「はなちゃん、いってらっしゃい」
と妻が言うと、娘も大きな声で
「行ってきまーす!」
と言った。続けて、妻が
「あなた、いってらっしゃい、気を付けて」
と言う。私は
「ああ……」
と生返事を返した。靴箱を開けて、革靴を取り出すと、靴に何か入っている。丸まった写真を取り出すと、驚きと共に、振り返り、妻が居たほうを振り向く。既に、そこに、妻の姿はない。
「パパー、なにそれー?」
と娘が聞いた。私は、
「なんでも、ないよ」
と言って、写真を2つに折り畳み、ポケットの中に突っ込んだ。玄関の扉を開ける。眩い朝日が目に入ってくる。それと共に冷気が流れ込んできた。今日は冷える。
娘を保育園に送り届けると、私は、途中の公園のベンチに座っていた。鞄の中から、茶封筒を取り出す。じっと封筒を見つめて、たばこでも吸おうとライターを探すが、いつもの場所にない。あれ、とすべてのポケットをあさっていると、先ほどの写真が出てきた。私は、そっとその写真を開く。2人の人物。一人は私。もう一人は女性。ただし、妻ではない。2人はホテルに入っていくところであった。
私は、茶封筒の封を開けると、私の浮気の写真をそっと入れた。そして、茶封筒を鞄の奥深くにしまい込む。私は、立ち上がるとふーと息を吐いて、息をスーっと吸い込む。今日は空気が冷たい。私は、仮面を被り歩き出した。家では、やさしい夫の、職場では、頼れる上司を、愛人とは、魅力的な男性を、仮面を被り続ける。
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