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私は子供たちの前で、笑顔の仮面を被ると決めた。
扉が開くと、出迎えてくれたのは5歳になる娘だった。
「パパ、おかえりー」
と、ジャンプをして出迎える。私は、思わず、顔がほころび、
「おう、はなちゃん。ただいま」
と言った。最近遅くに帰ることが多かった所為か、娘の興奮は冷めやらず、まだジャンプをして
「パパ、おかえりー」
と言っている。私は、もう一度、
「ただいまー」
と言うと、娘を抱きかかえた。
「どうだ。保育園は?楽しい?」
と言うと、満面の笑顔で
「うん!」
と言った。
「そっかそっか」
と言ったところで玄関に妻が出てきて、一瞬、硬直して妻の顔をまじまじと見てしまう。妻はいつものように言う。
「あら、あなた、おかえり」
「なに?何か私の顔についてる?」
と、訝しむ顔で言った。
「ん?ああ、なんでもない。ただいま」
と言った。妻はそれを聞くと、さっとダイニングのほうに行ってしまった。聞くタイミングを逃してしまった。後でも、いいか、と思っていると
「ねーねー。パパー、おろしてー」
と娘が言う。
「おお、ごめんごめん」
そう言って私は、娘をおろした。娘は、妻と同じように、ダイニングにかけていく。おいしそうな香りが漂ってきていた。私も、靴を脱いで、ダイニングのほうへ向かっていった。私は仮面を被る。子供たちの前では、決して素顔を見せないと決めて。
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