私は子供たちの前で、笑顔の仮面を被ると決めた。

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

私は子供たちの前で、笑顔の仮面を被ると決めた。

 扉が開くと、出迎えてくれたのは5歳になる娘だった。 「パパ、おかえりー」 と、ジャンプをして出迎える。私は、思わず、顔がほころび、 「おう、はなちゃん。ただいま」 と言った。最近遅くに帰ることが多かった所為か、娘の興奮は冷めやらず、まだジャンプをして 「パパ、おかえりー」 と言っている。私は、もう一度、 「ただいまー」 と言うと、娘を抱きかかえた。 「どうだ。保育園は?楽しい?」 と言うと、満面の笑顔で 「うん!」 と言った。 「そっかそっか」 と言ったところで玄関に妻が出てきて、一瞬、硬直して妻の顔をまじまじと見てしまう。妻はいつものように言う。 「あら、あなた、おかえり」 「なに?何か私の顔についてる?」 と、訝しむ顔で言った。 「ん?ああ、なんでもない。ただいま」 と言った。妻はそれを聞くと、さっとダイニングのほうに行ってしまった。聞くタイミングを逃してしまった。後でも、いいか、と思っていると 「ねーねー。パパー、おろしてー」 と娘が言う。 「おお、ごめんごめん」 そう言って私は、娘をおろした。娘は、妻と同じように、ダイニングにかけていく。おいしそうな香りが漂ってきていた。私も、靴を脱いで、ダイニングのほうへ向かっていった。私は仮面を被る。子供たちの前では、決して素顔を見せないと決めて。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加