0人が本棚に入れています
本棚に追加
私はやがて……。
私が風呂から上がると、妻はなにかそわそわとしている。
「どうした?」
と私が聞くと、妻は
「私の携帯、みなかった?」
と言う。きょろきょろとあたりを見回して、携帯がないことを確認すると、私は記憶の引き出しを探るが携帯がどこにあったか覚えていない。
「わからんな」
と言った。そうすると、妻が、
「鳴らしてよ」
と、言った。
「え?ああ、取ってくる」
と、私は言って、携帯がまだ鞄の中に入っていることを思い出した。私は、リビングに置いた鞄の元まで行き、蓋を開ける。茶色の封筒が目の前に飛び込んできた。今、子供達はいない。今なら、……。茶色の封筒を手に持つと、
「ねぇ。まだ?」
と言って、妻が飛び出して来た。私は、ギョッとして妻の方を見て、固まった。そんな私を見て、妻は、
「なに?」
と言った。私は、
「ああ、いや、何でもない」
と言って、目を泳がせた。
「携帯はあった?」
と妻が聞くと、
「ああ、そうだった」
と硬直から脱した私が言った。そして、茶色の封筒を鞄に戻して、携帯を取り出して電話を掛けた。私は、耳を済まして、あの着信音を待った。音がしない。すると、ダイニングから飛び出した妻が振動している携帯を持っていた。
「あった、あった。もういいから」
と妻が言う。私は、電話を切ると、妻が、
「ありがとう」
と言ってダイニングに戻っていった。私は、自分の鞄を見る。中に入っている茶色の封筒は、機を逃して、深い深い眠りについていた。
最初のコメントを投稿しよう!