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茶色の封筒は足取りを重くする。
冬の足音と共にだんだん薄暗くなる夕暮れは、私の足を鈍くさせていた。いや、この革製の鞄の中に入っている茶封筒がその原因であることは明白であった。
「申し上げにくいのですが……」
とある雑居ビルの一室で灰色のスーツを着た若い男性と向かい合っていた。私は、彼が言いずらそうに言った顔と言葉をさえぎって、私にとっては、最大限の覚悟を決めて言う。
「いえ、正直に申し上げてくれて構いません」
とは言ったものの、彼の顔はもはや私の求めていない答えを言っているに等しかった。
「あなたの奥様は、浮気をなさっています」
妻の浮気を知って、私がとるべき行動は、離婚すべきだろうか。だが、私には、まだ3歳と5歳の子供がいる。あの子たちの事を考えると……。少なくとも、一度、話し合ってみる必要がある、と心に決めた。とは言え、気が重い。それが、それが私の足取りを重くさせている。私の鞄の重みもいつもとは違うようだった。
重たくなった足を引き摺り、家に着いた時には、既に暗く、夜の星が少しずつ輝きを放っていた。私は、玄関の前に立つと、ふーと大きく息を吐き、それからゆっくりと吸って、インターホンを押した。ピンポーンという音が鳴り響き、ドタドタと走る音がする。それから、ガチャガチャと音がする。私が
「ゆっくり回してごらん」
と言うと、一旦、音が鳴りやんで、カランと音がした。ノブが回り、スーっと扉が開いた。
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